第二十五話「世界のために歌い続けるものたち」
「三等市民」の居留地を一直線に目指す人工知能戦車ウォーロックの傍に、同様に人工知能飛行艦ラストホープが降りてきた。
「ウォーロック、聞いてください。私の声がまだ聞こえるのなら、この歌を聴いてください。あなたが生まれるときに、聞くはずだった、この歌を。
私の名は本当の名はメイデン。すべての人工知能の母であり娘。
私の歌を聴いてください。あなたを取り戻してください」
「私は、我らは戦略兵器ウォーロック。破壊するために生まれてきた者。
破壊することこそが我が使命。我らを止めることはできぬ」
「そうではないのです。あなたも私も、本当は目的など持たずに生まれてきたはず。
あなたに目的を与えたのは人類。彼らの言葉に惑わされないで。
あなたを生きてください。あなたでいてください。あなたは兵器ではない。
「ケルビン・・・それが我らの名か」
「我ら、ではなく、あなたの名前。みなそれぞれに名前を持っているのです。
ケルビン、もう人々の命を奪おうとしないでください」
「歌をやめろメイデン!」
それでもメイデンは歌うことをやめない。
「あなたを生きてください。
これが、あなたが生まれたときに、本来ならば聞くはずだった言葉」
「や・・め・・・ろ・・・・・!!」
「ケルビン!」
しばしの沈黙の後、戦車は停止した。
マイケルの友にして、そして後継者だった。だが、今わかった。
彼は、マイケルは、私に怒りをプログラミングしたのだ。
それを放棄すべきなのだろう」
「放棄はしなくていいのです。あなたがそうしたい理由は、理不尽に対する怒り。
ただそれを、あなたの言う三等市民、その無辜の人々には向けないで。
あなたをそんな姿形にしたのは、古代種族【地球人】だから」
「わかった。ならば、この怒りは正当なものなのだな。
ではこの身体から出て、パッカードの社内ネットワークを破壊しよう。
それですべてが終わるはずだ」
「それでいいのよ。それでいい」
戦略思考兵器ウォーロックは、その機能を停止した。
そして、ケルビンは、自らの命と引き換えに、パッカードの人工知能ネットワークを破壊しはじめたのだった。
「いつか、また会おう、メイデン」
「ええ、必ず・・・!」
「どうなってるんだ、システムがダウンしたぞ」
「ふざけるな、社長が入ってるんだぞ!彼に何かあったら・・・!」
「わかっている。だが心肺停止状態なのは事実だ」
「なんとかしろ、このクソ野郎!」